一か月ほど前、ロードスターで保育園から息子を連れて帰った時のことです。
裏の家のおじさんがみい太の家の敷地に入ってきて、

「車変えたのかい?」

と話しかけてきました。

おじさんから話しかけてくるのはとても珍しいことでした。

みい太が群馬県に引っ越して来て10年ほど。

教員時代は仕事が忙しかったこともあり、

おじさんとは、

群馬に越してきた時の挨拶と、

家を建てる時の挨拶と・・・

えーと・・・

という感じで、挨拶以外で話すのはそれが初めてぐらいでした。

正直、お顔もこんな顔だったんだ…という感じ。

「前の車(ステップワゴン)はどうしたんだい?」

「売っちゃいました」

「えー、大変じゃない、子どもいるのに」

「でも、ずっと乗りたいと思ってたんで、買っちゃいました。
不便だけど、元気な内に乗っておきたくて」

「そうかい・・・でも、維持費なんかも大変だろう」

「でも、そんなに排気量も大きくないんで思ったよりは…」

「いやあ、でも、いい車だよー、これはいいよー」

そんな他愛もない話をして、おじさんは帰っていきました。

おじさん、車好きだったんだな。

また話せたらいいな。

と、思いました。

そんなに愛想がいい感じではなかったので正直怖いイメージでしたが、ニコニコしながら、みい太の車を眺めていたのが印象的でした。

若い頃はスポーツカー乗っていたのかなあ、

何に乗っていたのかなあ・・・

色々想像してなんだかうれしくなりました。

で、

1か月くらい後の今日のこと。

次男と妻が発熱してしまい学校を休んだので、みい太もフリースクールの仕事を休んで、息子を保育園に送った後すぐに帰宅しました。

妻は病院に出かけていました。

妻の車がなかったので、裏の家がよく見えました。

玄関に黒いジャンパーを着た背中が見えました。

「おじさん、ロードスターちら見するかな?」

心の中でニヤリとしながら、家に入りました。

おじさんの家の玄関からは、ちょうどみい太の家の駐車場が見えるのです。

少し経つと、病院に行っていた妻が帰ってきました。

「さっき救急車来たでしょ」

「来てないよ」

サイレンの音も何も聞こえませんでした。

「裏のおじさん、亡くなったんだって」


「え・・・」


信じられませんでした。


「あのおじさん・・・?」

つい昨日まで元気で、町内会の会議も出ていたそうです。

ヤクルトレディの方が、玄関が開いているのに、返答がないのを不審に思い、中で倒れているおじさんを見つけた、とのこと。

みい太がおじさんだと思った黒いジャンパーの人は、検死に来ていた警察官でした。
完全に亡くなっていたからか、救急車もサイレンを鳴らさずに来たようです。


まだ70歳前だったとのこと。

ロードスターをニコニコしながら見ていた顔が鮮明過ぎるくらい脳裏に浮かびました。

言葉を交わしたのは全部で3回ほど。

人柄さえ、よくわからないくらいです。

みい太の家が基礎工事をしていた7~8年前に、

「すごくいい基礎だね」

と言ってくれた、と妻が言っていたので、
建築関係の仕事をしていたのかもしれません。

もう、何も聞けなくなってしまいました。


「元気な内に乗っておきたくて」


と、自分が言った言葉を思い返しました。

おじさんは元気な時、どんな車に乗っていたんだろう。

楽しかったんだろうか。

スポーツカーに乗っていた昔を思い出して話しかけてくれたんだろうか。

写真は、ちょっと前、牛乳を切らしていたので早朝にコンビニに行った帰りに撮ったもの。

群馬県の片田舎なので、朝焼けもパノラマで見られます。

写真では伝わりづらいですが、ロードスターのボンネットに映る朝焼けが、とても美しくて思わず車を停めてしまいました。

「いやーロードスター、コンビニに行くだけでも楽しいんですよ」
「この朝焼け、きれいじゃないですか」

おじさんと、そんな会話もできなくなってしまいました。


明日が来るのは当たり前じゃない。


明日死んでもいいように生きよう、


と、思いました。

おじさん、お疲れさまでした。

話しかけてくれてありがとうございました。

最後に話せてよかったです。